2010/09/23

ウィーン 捨て犬の都!? VIENNE The City Of Abandoned Dogs !?

 
 
- 朝日新聞 世界発 2010 -  


「子供より犬をかわいがる街」といわれるウィーンで、捨て犬が急増している。ウィーン市が大型犬を飼う人に、しつけ徹底のため免許制度を導入したところ、煩わしい試験を受けるくらいなら、犬を手放した方がいいという「ダメ飼い主」が続出。動物保護施設は、哀れな犬たちでパンク寸前だ。
                              (ウィーン=玉川透)


ウィーン市が7月から、いわゆる「闘犬」と呼ばれる12犬種を指定し、飼い主に義務づけた免許制度が原因だ。
免許取得には、犬に関する知識を問う筆記と、しつけができているか街中でテストする実技の二つの試験に合格しなければならない。
散歩中に他の犬に吠えかかるのを防げなかったり、その犬に体罰を加えたら原点。
2回不合格なら、犬を手放さなければならない。
免許がない飼い主には最高1万4千ユーロ(約150万円)の罰金が科される。

(中略)


「犬の楽園」、今は昔

子供よりも犬をかわいがる・・・。
昔からこんな冗談があるほど、愛犬家が多い欧州諸国の中でもウィーンは犬を大切にする土地柄で知られる。
カフェやレストランのテーブルの下には、飼い主の食事が終わるのをじっと待つ犬の姿が見られる。
地下鉄やバスなど公共の乗り物も犬専用の料金で乗車。
子供たちが遊ぶ公園には、必ずと言っていいほど犬を放し飼いで遊ばせる「ドッグラン」がある。

(中略)


19世紀以降、産業革命で豊かさを手に入れた人々が貴族の暮らしをまね、犬を飼う文化が一気にひろまった。地方から都市に出てきた労働者が寂しさを紛らわすため、犬を飼い始めたという説もある。
その後、荷車を引かせることを禁じるなど犬の保護が進み、毎日2回の散歩や他の犬と遊ばせるなど、飼い方まで法律で規定された。
日本のように保健所で殺処分するなどもってのほかで、各地に捨て犬の保護施設も設置。
飼い主に責任を高める狙いから、1匹目に年約44ユーロ、2匹目から約65ユーロの犬税も課された。

そんな「お犬様」の街で、なぜ犬が捨てられるのか。
『ウィーンと犬』の著者マークス・ヒューブルさん(40)はこのように見る。
「犬を保護するシステムが発達していることが、皮肉にも、犬を捨てても罪悪感を感じない飼い主を増やした」

最近は、米欧の有名人らのファッションをまねて小型犬を飼う若い女性が増えている。
ウィーンで10年以上、犬の訓練に携わる日本人女性エッギー・クロメチェクさんは、「テニスラケットのような安易な感覚で犬を飼う人もいる。そんな犬は施設で、免許を取得した新しい飼い主に出会うのを待つ方が幸せかもしれない」と話す。